2012年4月30日月曜日


『認知文法論』山梨正明,ひつじ書房,1995年
とイメージスキーマ


教科書の第四章を紹介したいと思います。

4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分
 可算名詞は、名詞のうち、1つ、2つと数えられるものを指す。それに対して、物質や抽象概念のように直接的に数えられない(量的な多寡でのみ表現可能な)ものを指す名詞は不可算名詞である。
4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分
 英語の場合、名詞には、純粋可算名詞、純粋不可算名詞、文脈によって可算名詞にも不可算名詞にもなるものの3つのタイプがある。通常、英語の辞書では、可算名詞には [C] (countable の略)、不可算名詞には [U] (uncountable の略)などといった記号が付けられている。

4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分
 したがって、ある存在が可算か不可算かの二分法的な区分は,絶対的なものではない。また,この種の区分は客観的に決められるのではなく,典型的に可算か不可算かという相対的な判断によって決められる。(山梨正明:121)

4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分

 可算・不可算の認知的な基準は,問題の対象を把握していく場合に明確な境界線が引ける(bounded)か,境界線が不明瞭(unbounded)かによる(Langacker 1991a :63-66)。(山梨正明:121)

Bounded vs. Unbounded

4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分
 また,家具,ゴミを指示するfurniture,garbageなどの名詞は不可算名詞の一種として把握されるが,この場合には,これらの集合体の成員の個体性は捨象され,境界領域をもたない集合体として認知される(cf.Reid 1991:70-73,篠原1993:45-46)。 (山梨正明:122)

Furniture
加算名詞・不可算名詞の区別は言語によって異なる。
Garbage
4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分
 beer, coffee, whisky, wine等は,明確な境界領域をもたない液体としては,不可算名詞としてカテゴリー化される。このように特定の境界領域をもたない存在を個体化していく場合には, 2のように, a cup of, a glass of等の境界領域を限定していく表現が必要となる。(山梨正明:122)
2. a. Let's talk over a cup of coffee.
 b. Get me three glasses of beer.

疑問
4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分
¡@これにたいし, 3のように飲み物を注文するょっな文脈では,この種の限定表現は必ずしも必要ではない。
(山梨正明:122)
3. a. I’ll have a coffee.
 b. Would you like a beer?

4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分
 また,名詞の指示する対象そのものは境界をもたない存在でも,ある種の製品として認知される場合には,不定冠詞ないしは複数の標識をともなう個別表現によって境界領域をもった個体として把握される。(山梨正明:122)

4.8.1 ¹Ò¬É©Êと¥iºâ・¤£¥iºâの¬Û対ªº区¤À
4. a. A good wine needs no bush.

b. They sell several whiskies.

4.8.1 ¹Ò¬É©Êと¥iºâ・¤£¥iºâの¬Û対ªº区¤À
5. a. My favorite meats
are lamb and chicken.

b. 1 ate {cold, cooked, sliced} meats.

4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分
 この逆の場合も成立する。一般に,境界領域のある個体を示すとされる名詞でも,文脈によっては本来の境界を有する個体としての性質を失い,境界のない連続体として把握される場合がある。Langacker(1991a:73)は,その一例として6のような表現を指摘している。
6. After I ran over the cat with our car, there was cat all over the driveway.
 この場合のひかれてしまった猫は, もはや個体としてのアイデンティティを失い,連続体として把握されている。したがって, 6の主節のcatには, 個体を可算的に区分する不定冠詞は使われていない。(山梨正明:123)



4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分
 安部公房の小説に,次のような一節がある。

見ると…紙のように薄くなった猫の死骸を,大型トラックまでがよけて通ろうとしているのだった。無意識のうちに,ぼくはその薄っぺらな猫のために,名前をつけてやろうとし,すると,久しぶりに, 贅沢な微笑が頬を融かし,顔をほころばせる。(安部公房『燃えつきた地図』: 318)

 ここで問題になっている「薄っぺらな猫」は, もはや可算可能な個体ではなく,紙のように薄くなった動物の死骸としての存在として理解される。したがって,ここでの猫は,一面においてはモノとしてのオブジェにすぎない。(すなわち,ここでの猫は,もはや一匹,二匹というように数え上げていくことができる存在ではない。)しかし,それにもかかわらず,作家の認識の世界では, (無残な姿に成り果てているとはいえ)依然として猫としてのアイデンティティは保たれていると言える。(山梨正明:123)



同じように:Cake was all over the place.
4.8.1 境界性と可算・不可算の相対的区分
¡@池上(1993)は,可算の名詞が不可算に解釈されるプロセスとして,〈連続体化〉と〈抽象化〉の二つのプロセスを挙げている(ibid:. [(10):109-112])。前者〈連続体化〉は,複数の個体からなる集合体が認知的に均質な連続体として再解釈されるプロセスである。後者〈抽象化〉は,本来的には具体的な個体を指示する表現として使われる名詞が,一般的(ないしは総称的)な意味として再解釈されるプロセスである。(山梨正明:123)

³s続Ê^¤Æの¨Ò
4.8.2に出てくるので、その箇所を参照してください。
抽象化の例
池上は,抽象化の例として,次のょっな事実を指摘している(24)。

8. a. Car is the best mode of transport.
 b. Bed has so many happy associations for them. (Allan 1980 :55 2)
9. a. Spider is a shrike's best food. (ibid.: 552)
 b. [Intelligent Termite] :1 don’t like shelf—I’d rather eat table. (Langacker 1991a :73 )
 
 8の場合には, car, bedのような本来的には個体を指示する名詞が,一般的な意味で抽象化され,それぞれの個体の属するカテゴリーの一般概念のレベルの名詞として使われている。9のspider,shelf, tableに関しても,基本的には抽象化による不可算化のフロセスがかかわっていると言ってよい。ただし, 8と9の抽象化のプロセスは厳密にはことなる。8の場合には, 個体としての車ないしはベッドからその機能的な側面に焦点が移行し,この移行のプロセスを介して問題の名詞の抽象化が可能になっている。これにたいし,9の場合には,個体としての蜘妹からモズが食べる対象としての蜘妹の体,家具としての棚ないしは,テーブルから,シロアリが食べる対象としての棚ないしはテーブルの素材にメトニミー的に焦点が移行し,この移行のプロセスを介して問題の名詞の不可算的な解釈が可能になっている。(山梨正明:124)
4.8.2複数個体と連続体の変換
日常言語のなかには,外部世界の要素としては複数
の個体の集まりからなっている存在が,認知的に連続体として理解され不可算的にカテゴリー化きれる表現が広範に存在する。(山梨正明:124)

4.8.2複数個体と連続体の変換
 例えば,corn,cattle,sand等の名詞の指示対象の構成要素それ自体は,境界領域をもつ個体であるが,これらの名詞は,不可算名詞としてカテゴリー化されている。(山梨正明:124)

4.8.2複数個体と連続体の変換
¡@この種のカテゴリー化の背後には,〈複数個体〉 →〈集合体〉→〈連続体〉といっ認知作用を介して,複数の個体が連続体として把握されていくプロセスが認められる。


4.8.2複数個体と連続体の変換
 Lakoff (Women, Fire, and Dangerous Things の筆者) は,この種の主観的な認知フロセスを,複数個体から連続体へのイメージスキーマの変換のプロセスとしてとらえている。この種の認知プロセスを反映する例としては,次のような対が考えられる(Lakoff1987:441)。(山梨正明:124-125)

1. a. The wine spilled
out over the table.

b. The fans spilled out
over the field.


4.8.2複数個体と連続体の変換
2. a. He poured the juice through the sieve.
b. The fans poured through the gates.


4.8.2複数個体と連続体の変換

4.8.2複数個体と連続体の変換
¡@この種の主観的な認知作用による言語表現の拡張は,次の日本語の例にもみられる(山梨1993a:235)。
4.8.2複数個体と連続体の変換
3. a.汚水が川に流れ込んだ。
 b.群衆が会場に流れ込んだ。



4.8.2複数個体と連続体の変換
 3aは,液体の運動を描写している文字通りの表現であるが,この液体の運動の叙述に関する表現が, bのような個体の集合の対象の叙述にも拡張されて使われている。


4.8.2複数個体と連続体の変換
¡@主観的な認知作用を反映するこの種の拡張的な用法は, 4の例にもみられる。

4. この大阪駅へ,群衆は,
押し寄せては,また四方へ
流れ出てもいる。
(林芙美子『めし』: 8)

4.8.2複数個体と連続体の変換
¡@人の集まり(この場合,群衆)は
境界領域をもっ個体の成員からなる集合である。しかし,われわれは,この複数の個体の集合を液体と同じように連続体として認知し,この後者のイメージに基づいて複数の個体全体のダイナミックな動きを叙述している。(山梨正明:125)


4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@格の解釈は,問題の言語表現の概念内容を特徴づける
意味要因,その表現の生起する文脈や視点に多分に左右される。一般に,「ハサミで」,「鉛筆で」のような表現には,具格の典型的な意味役割が認められる。しかし,この意味役割に関する解釈も安定したものではない。この種の表現は,その背後に何らかの行為をおこなう主体が存在し,主体が問題の対象を意図的にコントロールし,さらにその対象が主体の行為を介し何らかの力を他の対象にたいして与える存在として解釈される場合には,典型的に具格としての意味役割が与えられる(36)。(山梨正明:153-154 )

4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
 この観点からみるならば,「ハサミで」,「鉛筆で」のような表現は,具格の典型的な機能をになう表現とみなされる。しかし,この種の格の解釈は,問題の言語表現の指示対象に関するわれわれの主観的な理解と,その表現が使われる文脈に多分に左右される。(山梨正明:154 )

4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@例えば,「片手で(綱を引っぱる)」,「クーラー
で(書斎を冷やす)」,「雰囲気で(観客を圧倒する)」のような表現は,見方によっては具格の役割をになう表現として解釈できる。しかし,これらの表現は,通常の典型的に具格とされる表現から微妙に解釈がずれていく。例えば,「片手で」の場合は, 行為を行なう主体の肉体の一部であり,ハサミや鉛筆のように主体から離脱可能な存在とはこの点でことなる。(山梨正明:154 )

「クーラーで(書斎を冷やす)」
4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
 「クーラーで」の場合は,主体の動作による力がクーラーに伝わり,その力ないしはエネルギーにより書斎が冷えるのではない。書斎が冷えるのは,クーラーから出る冷気による。(山梨正明:154)
¡uܨ囲気で(観«Èを圧­Ëする)¡v
4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@「雰囲気で」の場合には,さらに具格のプロトタイプの例に比べて,その対象にたいする主体のコントロールのカは弱くなり,その対象自体に,行為の結果を引き起こす内在的な力が存在しているという解釈が相対的に強くなる。この種の解釈に傾いていくにつれて,次第に原因格の解釈が強くなっていく。(山梨正明:154)

4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@このような<具格の解釈>から<原因格の解釈>へのゆれを,相対的に決めていく要因は何か。ここでは,次の(1)~(5)のタイプの要因を,具格と原因格のあいだの解釈を相対的に決めていく視点として仮定する。

(1) <具象性>:対象が具象的(Concrete)に把握されるか
(2) <離脱性>:対象が動作主体から離脱可能(Alienable)か
(3) <手動性>:対象のマニュアル的な操作が可能(Manipulable)か
(4) <統御性>:対象に対する直接的な統御が可能(Controllable)か
(5) <責任性>:対象に変化に関する自律的な責任が内在する(Responsible)

(山梨正明:154)

4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@この種の視点は,表4のような認知的視点の複合システムとして機能する。この視点は,具格と原因格のあいだの相対的な解釈を規定していく認知機構の一部として機能しており, 日常言語の格の解釈モデルの一部を構成しているものと考えられる。(山梨正明:155)
4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈

具格性一原因性のグレイディヱンス

(具格性)    〈ハサミで〉

   〈片手で〉

〈クーラーで〉

〈雰囲気で〉

(原因性) 〈頭痛で〉

4.10.3.4¡@èhのデモ
4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@われわれがある表現の格解釈を行っていく際には,表4のタイプの視点を問題の表現の指示対象に複合的に投影している。この観点からみるならば,表5の「ハサミで」は,その対象が具象的(十CONC)で,手で操作可能(+MANIP)で(しかも,手から離脱可能(+ALIEN)で),意図的にコントロール可能(+CONTR)であり,さらにそれ自体には内在的な力は存在していない(-RESP)。したがって,「ハサミで」のタイプの表現は,表6のAに示きれる典型的な具格の解釈が与えられる。これに対し, 「頭痛で」のタイプの表現は,「ハサミで」のタイプの表現と対照的に,典型的な原因格の解釈(表6のB)が与えられることになる。(山梨正明:156)

Not tonight,
I have a headache.
「頭痛で」は典型的な原因格の解釈である。

4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
「ハサミで」と「頭痛で」のような表現は,それぞれ具格のプロトタイプと原因格のプロトタイプとして,グレイデイエンスをなすスケールの両極に位置づけられる。これにたいし,「片手で」,「クーラーで」,「雰囲気で」等は,これらの中間的な格の解釈になり,単純に具格とも原因格ともいえないファジィなスケールの延長線上に位置づけられる。(山梨正明:156)


4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@この認知的な格規定では,原因格のプロトタイプは,問題の対象に目に見えない自律的で内在的な力が備わっており,他からコントロールされない存在とみなされる。その典型例が,「頭痛で」,「癌で」,「肝炎で」のような表現と考えられる。(山梨正明:156)

4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@ただし,原因格の役割をになう表現としては,「台風で」「洪水で」のような表現も考えられる。(山梨正明:156‐157)
4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@この後者のタイプの表現は,一見したところ,内在的な存在というよりも,具体的で外在的な力をもった表現のようにも考えられる。しかし,この種の表現は自然現象に関する表現であり,一見したところ現象そのものは具体的にみえても,その現象の背後には,やはり内在的な力が備わっているものと考えられる。(山梨正明:156)

4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@
4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@
4.10.3.4 認知的視点の投影と格解釈
¡@
4.10.3.5プロトタイプと成員の帰属性
¡@格のスケールの対極に位置づけられる意味役割の領域は,限定された一つの格カテゴリーの領域を形成しており,それぞれの意味役割をになう事例(例えば,具格,原因格等の事例)がその成員として同等の資格で帰属しているようにみえる。しかし,前節の格規定にみられるように,あるカテゴリーの領域にかかわる事例が,同等の資格でそのカテゴリーに帰属する保証はない。問題の事例のうちのあるものは焦点化され,そのカテゴリーの代表的な成員として位置づけられ,プロトタイプとみなされるが,ある事例はプロトタイプとの類似性の程度によって相対的に決められる。すなわち,ある事例が問題のカテゴリーに属するか否かは,プロトタイプとの類似性の程度によって規定される(40)。(山梨正明:158)


4.10.3.5プロトタイプと成員の帰属性
 格のスケールの対極に位置づけられる意味役割の領域は,限定された一つ
の格カテゴリーの領域を形成しており,それぞれの意味役割をになう事例
(例えば,具格,原因格等の事例)がその成員として同等の資格で帰属してい
るようにみえる。しかし,前節の格規定にみられるように,あるカテゴリー
の領域にかかわる事例が,同等の資格でそのカテゴリーに帰属する保証はな
い。問題の事例のうちのあるものは焦点化され,そのカテゴリーの代表的な
成員として位置づけられ,プロトタイプとみなされるが,ある事例はプロト
タイプとの類似性の程度によって相対的に決められる。すなわち,ある事例
が問題のカテゴリーに属するか否かは,プロトタイプとの類似性の程度によ
って規定きれる(40)。(山梨正明:158)


4.10.3.5プロトタイプと成員の帰属性
 具格,原因格のプロトタイプとしての事例と他の事例との関係も,絶対的なものではない。ある対象がある格領域のプロトタイプ的な格として解釈されるか否かは,主体としての解釈者が,その対象にどのような視点を投げかけるかによって相対的に決められる。前節のCONC,ALIEN, MANIP等の要因は,このような格の類似性の解釈を決める複合的視点の一部と考えられる。ある対象が具格的なのか原因格的なのかの判断は,厳密には,これらの要因の組み合わせからなる複合的な視点によって規定される。(山梨正明:158)
4.10.3.5プロトタイプと成員の帰属性
¡@従来の格記述では,格の役割が解釈されていく認知的なプロセスは考慮されず,視点や文脈から独立した個々の意味役割のカテゴリーの絶対的な区分が問題にされてきた。しかし,これまでの考察から明らかなように,ある対象にたいする典型的な意味役割としての格解釈は可能であっても,絶対的で唯一的な解釈はあり得ない。前節で提示した主体の投影する複合的視点は,この種の相対的な格解釈を可能とする日常言語の認知モデルの一部として機能するものと考えられる。(山梨正明:158-159)


4.10.3.5プロトタイプと¦¨­ûの帰属©Ê
4.10.3.5プロトタイプと¦¨­ûの帰属©Ê
4.10.3.5プロトタイプと¦¨­ûの帰属©Ê
4.10.3.6格領域の焦点化と認知基準
¡@日常言語の意味役割を特徴づける格領域は,明示的な境界によって区分される領域ではなく,典型的な意味役割としての理解が容易で認知しやすい部分,すなわち典型的な意味役割としての焦点ないしはフォーカスが置かれている領域を中心として,相互に部分的にオーバーラップしている。(山梨正明:159)


4.10.3.6格領域の焦点化と認知基準
¡@一般的な格規定では,プロトタイプとして理解される格の焦点に相当する部分に,しかるべき意味役割が与えられている。しかし,この種の規定は,あくまでプロトタイプとしての格とその周辺のファジーな境界領域を示している規定であり,厳密に限定されカテゴリー化された格領域を捉えているわけではない(41)。(山梨正明:159)


4.10.3.6®æ»â°ìのµJ点¤Æと»{ª¾°ò·Ç
焦点化されプロトタイプとして認識される格領域
4.10.3.6格領域の焦点化と認知基準
¡@一般に,意味役割の候補として挙げられてきている動作主格,具格,様態格,原因格等の意味役割が, どの程度の数に限定されるかの厳密な基準は存在していない。ただし,これまでの言語分析で提案されている格領域の一部は,直観的にみて知覚,情報処理,習得等の観点からみた焦点化の認知基準を満たしている。しかし, 日常言語の表現が,常にこの種の焦点化された格領域に位置づけられるわけではない。この種の意味役割が複合的にかかわっている表現は,この焦点化されている領域の聞に相対的に位置づけられ,そこに〈格解釈のゆらぎ〉が生じることになる。(山梨正明:159-160)


4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
¡@これまでの考察では,この格領域の相対的な位置
づけと格解釈のゆらぎの問題を,日本語の事例に基づいて考察してきた。しかし,格解釈のゆらぎは,日本語に限られるわけではない。基本的に同様の問題は,他の言語に関してもみられる。言葉に人間の認知的な視点が反映されている点を考慮するならば, 日常言語に一般的にこの種のゆらぎが認められるのは自然である。(山梨正明:160)


4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
 次の英語の前置詞withの格解釈を考えてみよう。1のa~cの前置詞のwithは,それぞれ道具,様態,原因の意味役割をになっており,この種の格解釈は,かなり安定しているようにみえる。すなわち, 1では,with a hammerは具格,with easeは様態格, with angerは原因格の役割をにない,それぞれが独立の格機能によって特徴づけられる表現のようにみえる。

1 . a. The man broke it with a hammer.〈具格〉
b. John solved the problem with ease.〈様態格〉
c. The lady flushed with anger.〈原因格〉

 しかし,実際には,これらの意味役割の間に,自律的な格としてのカテゴリーの境界を認めることは厳密には不可能である。 (山梨正明:160)



4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
 例えば, 2に示されるように,

2. く具格的一様態格的〉
 a. The man broke it with a hammer.
 b. The boys walked with bare feet.
 c. They were fighting with courage.
 d. John solved the problem with ease.

 aの具格的な格とdの様態的な格のどちらとも認定できないボーダーライン上のb,cのような表現も存在する。すなわち, 2のwithを伴つ表現は, aからdにいくにしたがって様態性の高い表現になっている(42),(43)。(山梨正明:160)



4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
¡@同様に, 3のaとdの間の境界もファジーであり, aからb,c, dの表現にいくにしたがって,原因性の高い表現になっている。
3 . 〈様態格的一原因格的〉 様態格的
 a. John solved the problem with ease.
 b. Our boss said with a frown.
 c. The lady flushed with wine.
 d. Bill was almost dying with hunger. 原因格的

4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
英語の助詞の連続性も見られる
 a. John solved the problem with ease.   with
 b. Our boss said with a frown.
 c. The lady flushed with wine.
(flushed from the wine) とも言える
 d. Bill was almost dying with hunger.   from
(dying from hunger)とも言える(fromの使用率はより高い)
4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
¡@これらの具格-様態格-原因格の解釈は,表7に示されるようなグレイデイエンスをなすスケール上に相対的に位置づけられる。(1)から(4)にいくにしたがって具格の解釈から様態格の解釈が強くなり, (4)から(7)にいくにしたがって原因格の解釈が強くなる。

〈道具-様態-原因〉のグレイディエンス
(1) The man broke it with a hammer.     〈具格〉
(2) The boys walked with bare feet.     :
(3) They were fighting with courage.     :
(4) John solved the problem with ease. 〈様態格〉
(5) Our boss said with a frown.       :
(6) The lady flushed with wine.       :
(7) Bill was almost dying with hunger.     〈原因格〉
(山梨正明:161)


½訳してみると­±¥Õい¶É¦Vが¨£られる
ハマーを¨Ïって¡B³Îった¡C

4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
¡@この種の例をみるかぎり,具格と原因格の領域は,様態格の領域を中間とするスケールの両極に位置づけられているようにみえる。しかし,この種のスケールも相対的に規定していく必要がある。具格,原因格の領域が,常にグレイデエンスのスケールの両極に位置づけられるわけではない。また,具格ないしは原因格が,常に様態格の領域との隣接関係によって位置づけられるわけではない。

4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
¡@具格は,場合によっては,場所格の領域にも関係していく。例えば, 4のaとbを比較してみよう。
4. a. We cut the log with the machine.
b. This dress washes in the machine.
 この場合,withを伴うaの前置詞句は,具格として解釈きれるが, bの前置詞句は,厳密には具格としての解釈だけでなく場所格としての役割をになう表現としても解釈できる。(山梨正明:162)


4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
¡@基本的に, 5のタイプの前置詞句は,交通の手段としての具格の役割をになっている表現として理解できる(44)。

5. a. Bill went there by {train, car, bus, boat}.
       b. They left by the 6:30 a.m. train.
       c. Did you come by boat or by train?

4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
4.10.3.7格領域の複合的オーバーラップ
4.10.3.8中核領域と周辺領域の相対性
¡@前節までの考察から,格の現象一般に関し次の点が確かめられる。すなわち,焦点化された格領域のどれか一つが,プロトタイプとしての格領域を構成しているのではない。どの格領域を中心としてみるかによって,グレイデイエンスのスケールが相対的に変化する。ある一つの格領域をピボットにするならば,これに関連する格領域は,相対的にその周辺に分布する領域として位置づけられる。しかし,他の点からみた場合に周辺に位置すると考えられる格領域も,視点の投影の仕方によっては焦点化される場合も十分考えられる。(山梨正明:163)


4.10.3.8中核領域と周辺領域の相対性
¡@認知的な視点に基づく本書のアプローチでは,このような格領域の解釈に柔軟な規定が与えられる。また,このアプローチでは,問題の表現にたいしカテゴリー化された格の役割が唯一的に与えられる必要はない。このアプローチでは,問題の表現がどのような役割をになうかに関する判断は, 複合的な視点のスキーマによって相対的に決められる。したがって,視点の投影の仕方によっては,一つの言語表現に複数の格解釈が与えられる場合も自然に予想される。(山梨正明:164)


4.10.3.9認知格モデル一二つの格レベル
¡@これまでの格規定の問題は,「深層格」と「認知格」の二つの観点から再検討する必要がある。本書では,従来の「深層格」の規定と本書で提案する「認知格」の規定を次のように区別する。

A. 〈深層格〉: a.外部世界の事実関係を反映する格の意味規定.
b.真理条件的な意味関係による格の意味規定. (Fillmore 1968, 1969)

B. 〈認知格〉: a. メンタルな認知のプロセスをダイナミックに反映する格の意味規定。
b.複合的視点による統合的な格の意味規定。(山梨1987c,1989a)


4.10.3.9認知格モデル一二つの格レベル
¡@Aのタイプの「深層格」は, Fillmore (1968,1969)に代表される従来の格文法の線にそった意味役割の規定である。この線にそった格の規定は,外部世界の真理条件を反映する意味規定に基づいている。この規定では,問題の名詞は,外部世界の何らかの役割をになうカテゴリー化された深層格としてのラベルが付与され,この深層格の組み合わせからなるフレーム(i.e.格フレーム)に基づいて,文の同意性やパラフレーズの関係が一般的に規定される。(山梨正明:164)


4.10.3.9認知格モデル一二つの格レベル
¡@これにたいし, Bのタイプの「認知格」の線にそった規定では,問題の名詞にはカテゴリー化された格の役割が唯一的には与えられない。この認知格による規定では,問題の表現がどのような役割をになうかの解釈は相対的であり,その表現を解釈する主体の視点のとりかたによっては,複数の格解釈が投影される場合も自然に予想される(cf.山梨1987c,1989a)。これまでの深層格による格規定で問題になるのは,格の役割が一律に決定できない場合である。Bの認知格の観点からみるならば,ある表現に一つの格役割が対応すると考えられる事例は,プロトタイプ的な事例として位置づけられる。ある格のカテゴリーと他の格のカテゴリーとの間で解釈がゆれ,一律に一つのカテゴリーによって解釈できない事例は,このプロトタイプとしての格の解釈とグレイテイエンスをなす形で相対的に規定される。(山梨正明:165)


4.10.3.9認知格モデル一二つの格レベル
¡@言語学の分野では, 「格」という用語はいろいろな意味に使われている。この用語は,言葉の形態論的な側面にかかわる表層格あるいは構造的な側面にかかわる文法格の意味で使われ,さらに深層レベルの意味役割(すなわち深層格)の意味でも使われる。「格」の概念は,伝統的な記述文法,類型論的な文法研究,結合価文法,格文法,生成文法等の理論的な枠組みに基づく言語研究において,統語現象,意味現象を分析していく際の記述項の一部として採用されている。しかし,これまでの研究では,格の意味役割はかなり直観的な概念として適用されており, 言語分析に際し明確に定義された記述項としては使われていない。また,これまでの研究では,本書で指摘した格現象の問題-格役割の多義性,格解釈のゆらぎ,格インヴエントリーの暖昧性,意味役割の定義基準の不備等の問題ーにたいする体系的な規定はなされていない。この種の格現象にかかわる問題は,従来の深層格の概念に基づく格モデルだけでなく,結合価モデル,Ө一役割(ないしは主題役割)に基づく項構造のモデルを組み込む文法理論のいずれに関しでもあてはまる。(山梨正明:165)

4.10.3.9認知格モデル一二つの格レベル
 言語現象は,一見したところ形式の体系からなる自律的な記号系として限
定され,形式的な制約によって個々の現象の記述・説明がなされるようにみ
える。しかし,言語現象の背後には,形式の制約を動機づける意味的な制約
が存在する。また,この形式と意味の制約は,言語主体の認知的な制約によ
って動機づけられている。言語現象の実質的な記述・説明を図っていくため
には,形式と意味の制約だけでなく、この認知的な制約にかかわる人閉め認
識のプロセスを反映する言語分析のアプローチが必要となる。
(山梨正明:165-166)

4.10.3.9認知格モデル一二つの格レベル
 言葉の基本的なメカニズムを理解していくためには,修飾の表現機能の問題をさけて通ることはできない。修飾は,文法論を中心とする言語研究の重要な研究テーマのーつとして注目きれている。一般に,修飾は連用修飾と連体修飾の問題にわけられるが,このいずれのテーマも主に形式と構造を中心とする統語論の問題として扱われてきている。しかし,意味論・語用論の観点からみた言葉の機能的な側面,修飾のレトリックの観点からみた表現機能の側面からの研究は体系的にはなされていない。以下では,語用論的な観点からみた修飾表現の表現機能のちがい,連体の慣用的な修飾機能,比喩的修飾と叙述の制約,連体修飾と複合的叙述,転移修飾の連体機能,修飾の部分省略とメトニミーなどの問題を考察しながら, 日常言語の文法とレトリックの問題を検討していく。(山梨正明:166)



4.11.1装定・述定と連体修飾
 連体修飾は,修飾の最も基本的なメカニズムの一つである。一般に,連休の修飾関係は,「ネクサス」(nexus)と「ジャンクション」(junction) (Jespersen 1924: 97,114-44),あるいは「装定」と「述定」(佐久間1958:44-55)の関係として問題にされている。述定ないしはネクサスの関係は,基本的に〈主部一述部〉の関係からなる(e.g.[述定/ネクサス]:「花がきれいに咲いている」/“The dog barks furiously.”)。これにたいし,装定ないしはジャンクションは,この主述の関係が逆転きれた修飾関係としてとらえられている(e.g.[装定/ジャンクション]:「きれいに咲いている花」/“The furiously barking dog")。(山梨正明:166-167)

「ネクサス」と 「ジヤンクション」
「装定」と「述定」
「装定」
 装定の関係によって特徴づけられる連休修飾の表現は,統語的には,名詞を主要部とする構造ををなしている。例えば,次の1~4に,この種の構造の典型例がみられる(46)。(山梨正明:167)


「装定」
1. a.西部劇に出てくるインディアンは従来どう描かれてきたか。奇声を発して開拓者たちを襲ったり妨害したりする未開人, というのが通
り相場だった。 (「天声人語」:19 91. 4.22)
(山梨正明:167)

「装定」
b. (木々は着実に春を感じとり,芽をふくらませて
いる)…飴を塗ったように,ぬめぬめと光るトチノキの芽。長い芽鱗に包まれた,角のようなホオノキの芽。…鈴を振るようなミソサザイの歌声。当方のすぐそばまで偵察に来るシジュウカラの鳴き声。
(「天声人語」:1991.4.21)
(山梨正明:167)
¡u装©w¡v
2. a.大人はだれでも一度は子供だったことを,ただの原つばを駆け回っていたことを, 思う日。
b.バングラデッシュにサイクロン襲来,千,万単位で人命が消える現実を薫風の下で嘆くわれ。(「素粒子」朝日新聞〈夕刊〉1991.5.2)
(山梨正明:167)
¡u装©w¡v
3. 鳥の羽音,さえずる声。風のそよぐ,鳴る,うそぶく,叫ぶ声。… 空車荷車の林をめぐり,坂を下り,野路を横ぎる響き。…何事をか声高に話ながらゆく村の者のだみ声,それも何時しか遠かりゆく。独り淋しそうに道をいそぐ女の足音。遠く響く砲声,隣の林でだしぬけに起る銃声。
(国木田独歩『武蔵野』: 13-14)
(山梨正明:167)

¡u装©w¡v
4.星よりもほのかなものはみどり児のほほえみ,ついたち二日の月。…月の夜の白い白いむくげに影きすものは笹の葉。…月かげすらも痛からむ,明日ひらく紅き蓮のつぼみの尖よ。
(北原白秋「月光微韻」,『現代名詩選』: 115-117)
  (山梨正明:167)

4.11.1装定・述定と連体修飾
 一般に,装定の関係によって特徴づけられる連体修飾の表現は,統語的には名詞を主要部とする構造になっている。したがって,装定による表現は,この主要部にむかって意味的に収斂し集中していく〈凝縮的〉表現として機能し,この点で主述関係の軸にそって展開していく述定の〈拡散的〉表現とはことなるという指摘がよくなされる。(山梨正明:168)


4.11.1装定・述定と連体修飾
 例えば,Jespersenは,装定は凝縮的でスタティックな絵ないしは写真のような表現であり,述定は柔軟でダイナミックなドラマのような表現であるとして,両者の違いを次のように述べている:“A junction is like a picture, a nexus like a process or a drama.”“Whereas the junction is more stiff or rigid,
the nexus is more pliable." (Jespersen 1924:116) (47) (山梨正明:168)

4.11.1装定・述定と連体修飾
¡@この一般化は,一見したところ納得がいくように思われるが,これはあくまで装定と述定の統語構造のちがいを比喩的に述べているにすぎない。たしかに,装定の表現を特徴づける連体修飾の構造は,統語的には名詞を主要部とする構造になっている。そして,修飾部にあたる表現は,この主要部に依存するかたちで構造化されており,全体の構造は名詞(句)の内心構造(endocentric construction)になっている。これにたいし,述定の表現は,主部一述部の文としての命題内容をもつ外心構造(exocentric construction)になっている(48)。装定は〈凝縮的〉表現であり,述定は〈拡散的〉表現というような一般化は,あくまで統語的にみた場合の内心構造と外心構造のちがいを,たとえとして述べているだけであり,実際にこれらの表現が使われる場合の機能的な説明をしていることにはならない。(山梨正明:168)


4.11.1装定・述定と連体修飾
¡@二つのタイプの表現の統語的な構造のちがいが,このようなたとえによって区別されるのはそれでよい。しかし,ここで問題にしたいのは,意味的,語用論的にみた場合のこれらの表現の機能的なちがいである。(山梨正明:168)

4.11.1装定・述定と連体修飾
¡@日本語の場合,連体修飾の装定の表現は,全体が名詞を主要部とする内心構造になっており,語順としては,〈修飾部〉ー〈主要部〉のかたちになっている。談話の情報構造の観点からみるならば,情報のフォーカスは基本的に問題の表現の末尾(連体修飾の場合には主要部)に置かれるのが普通である。したがって,伝えようとする問題の事態ないしイヴェント全体に注目するのではなく、その事態ないしイヴェントを構成しているある対象に注目する場合には,そうでない特別の事情がないかぎり,修飾部-主要部の語順の内心構造をもつ装定の表現が適切であるといえる(49)。(山梨正明:168-169)

4.11.1装定・述定と連体修飾
¡@この点は,注意をつながす表現の使い方のちがいによって裏づけられる。例えば,エレベーターの出入りの場面で注意をうながす表現として使われる
5のような例を考えてみよう。
〈場内のアナウンス〉
5. a.閉まるドアに御注意ください!
b. ドアが閉まります(ので)御注意ください!
(山梨正明:169)


4.11.1装定・述定と連体修飾
 ¡@一般に,このような場面では, ドアが閉まるという事態ないしはイヴェント全体が,出入りする関係者に問題になるというよりも,閉まってくるドアというオブジェ自体が注意の焦点になる。したがって,この場合には,一般に述定の5bの表現よりも,連体修飾からなる装定の5aタイプの表現の方がより適切といえる。(山梨正明:169)


4.11.1装定・述定と連体修飾
 ただし,5bのような述定の表現が,逆に適切な状況も考えられる。例えば,6のように,あるビルの玄関のドアの閉まる時間に関する注意をうながすような状況を考えてみよう。
〈ビルの注意書き〉
6. a.九時にドアが閉まりますので御注意ください!
b. (?)九時に閉まるドアに御注意ください!
 この状況では,逆に述定からなる6aの表現の方が適切である。
 また, 6aのような述定の表現は,その場面で一回だけ生起する事象というよりも,恒常的,習慣的な事実に関する情報を伝える表現である。これにたいし, 5aのような連体修飾の装定の表現は,その瞬間にいわば〈一回事象的〉に起こる迫真性をおびた状況において使われる傾向がある。(6bの装定の表現は,この〈一回事象的〉なニュアンスを,逆に高めてしまう表現であるため不適切になるといえる。) (山梨正明:169-170)


〈新聞の見出し〉
一般に,連体修飾によって特徴づけられる装体の表現は,〈一
回事象的〉で〈具体的〉で〈対象指向的〉な機能をになう表現手段として使われる傾向がある。例えば,以下にみられるように,新聞の見出しゃ写真のキャプションなどに,この種の連体修飾の表現が多くみられる。
〈新聞の見出し〉
7. a. (ソ連軍進駐)暴行・略奪・飢え・寒さ…大八車に重なる遺体
b.棄権扱い眠る316票     (朝日〈朝刊〉1991.4.29)
8.再生へ燃えぬ社会党     (朝日〈朝刊〉1991.4.28)
9. a. 減り方少ない高齢者
b.小屋住まいで職待つ移住民   (朝日〈朝刊〉1991.4.27)

¡q写¯uのキャプション¡r
10. a. (近鉄-オリックス)完投で2勝目を挙げた近鉄・野茂
b.(男子団体 日本-ナイジエリア)第一セット,ムサのスマッシュをカットで返す松下浩二
c.「今すぐにでも試合をしたい」と張り切るダイエーのメジャーズ
(朝,日〈朝刊〉1991.4.28)
1l.揺れるイトマン本社(朝日〈朝刊〉1991.4.28)
 具体的で一回事象的な状況に使われる装定の表現は,生き生きとした迫真にせまる状況を描写するのにも適している。したがって,次のような講談風,講釈風的な台詞に,この種の表現がみられる。
(山梨正明:170)

4.11.1装定・述定と連体修飾
 したがって,次のような講談風,講釈風的な台詞に,この種の表現がみられる。

¡qÁ¿½Í/Á¿釈­·ªºな¥xµü¡r
12. a.そこに現れいでたる伊賀の忍者
b.突然泣きくずれるお蔦
c.ふてぶてしく眠り続ける宮本武蔵
d.あまりの衝撃に茫然自失の妻
e.西へ東へと逃げまどう女子供
f.そこへやって来たのが隣の旦那
(山梨正明:170-171)


4.11.1装定・述定と連体修飾
¡@また,具体的な人物や状況の確認をうながすための呼び掛けの発話にも,連体修飾の装定の表現が使われる。
13. a. あ,これはこれは,吉野屋にお勤めの鈴木さん。
b.やあ,いつも元気な兄さん。やってますねえ。
c. ねえ、勉学一筋の一郎君。遊ぼうよ!
d.おや,誰かと思えば,新人賞をおとりになった山田さん!
e. これは,吉本で売れに売れている池乃メダカさん!
 とくに,この種の発話のコンテクストでは,話し手と同様に,呼び掛けられている聞き手の側も,問題の修飾部で指摘されている事実は(本人自身のことであるから)当然わかっている事柄である。換言すれば,問題の修飾部で指摘されている事実は,いわば対話者間にとっての既知情報である。一般に,この種のコンテクストでは, 13のタイプの発話のかわりに,主部-述部からなる述定の表現は使われない(51)。
(山梨正明:171)

4.11.1装定・述定と連体修飾
¡@装定の表現は,一般的な傾向として,〈対象指向的〉な機能をになう表現であるという点はすでに指摘した。さらに,装定の表現は,談話のなかに具体的な存在を導入する機能,いわば〈対象導入的〉な機能をになう表現であると言いかえてもよい。この点は,次のAとBの対話におけるレポーターの開口一番の発話(i.e.Bの発話)から裏づけられる。(山梨正明:171)


く対¶H¾É¤Jªº¡rな¾÷¯àをになうªí²{
〈レポーターの開口一番〉
14. A:沖縄放送さん!?
B:はい,南国の海が微笑む沖縄です。聞こえますでしょうか?
15. A:では,ニューヨークを呼んでみましょうか。
B:もうすぐ,クリスマスイヴを迎えようとしているニューヨークです。
16. A:もしもし,猪木事務所ですか?
B:どーも。こちら,昨夜から興奮が高まりつつある猪木事務所です。 (山梨正明:171-172)

4.11.1装定・述定と連体修飾
¡@これらの対話のうち,一見したところ, Aの発話は対話の主題ないしはトピックをっくり出している発話のようにみえる。しかし,厳密には,Aの発話は,興味の焦点となっている対象の具体的な導入をうながす質問文として機能しているだけであり,主題ないしはトピックをつくりあげる発話としては機能していない。Aの発話は,あくまで興味の焦点の導入部である。したがって,この場合には, Bの発話として,主要部にフォーカスをおく装定の連体修飾の構文が使われるのが自然である。
(山梨正明:172)
4.11.1装定・述定と連体修飾
¡@もし, Aの発話が,対話の主題ないしはトピックをっくり出す発話の場合には,むしろBの表現としては,主部一述部からなる述定の表現の方が応答としては自然である。
14'. A:沖縄はいかがですか?
B:はい,沖縄はいま南国の海が微笑んでいます。
(cf.B' : (?)はい,南国の海が微笑む沖縄です。)
15'. A:では,ニューヨークはどうでしょう?
B:ニューヨークは, もうすぐクリスマスイヴを迎えようとしています。
(cf.B' : (?)もうすぐ,クリスマスイヴを迎えようとしているニューヨークです。)
16. A:もしもし,猪木事務所はどうですか?
B:こちら,猪木事務所は,昨夜から興奮が高まりつつあります。
(cf.B' : (?)こちら,昨夜から輿奮が高まりつつある猪木事務所です。)
(山梨正明:172)

4.11.1装定・述定と連体修飾
¡@この場合には, Aの発話が,問題の対話のコンテクストにおける主題になっている。したがって, Bの応答は,テクストの整合性(coherence)の論理からして,当然この主題を主部でうけ,これについて叙述していく述定の構文をとるのが自然である。(したがって, 14’~16' のB' の発話から明らかなように,この場合には,逆に連体修飾の装定の構文は不適切になる。) (山梨正明:172)



4.11.1装定・述定と連体修飾
¡@ここまでにみてきた連体修飾の例では,修飾部分が比較的みじかい表現になっている。一般に,装定の表現は,修飾部が主要部にむかつて収斂し集中していく〈凝縮的〉表現であるという一般化がなされている(cf.Jespersen 1924,佐久間1958)。しかし,本節のはじめに指摘したように,これはあくまで統語的にみた場合の内心構造をたとえとして一般化しているにすぎない。装定に関するこの種の一般化は強すぎる。(山梨正明:173)


4.11.1装定・述定と連体修飾
 問題の連体修飾の部分が長い表現になればなるほど,修飾部と主要部の緊密関係は相対的にうすれ,逆に修飾部の内容は主要部から独立し, 〈拡散的〉に叙述が展開していく例も考えられる。典型例としては,次のような新聞記事が挙げられる。(山梨正明:173)

¡q·s»D°O¨Æ¡r
17.千葉県松戸市馬橋の宅地造成地から一九七四年(昭和四十九年)八月,近くに住む信用組合職員宮田早首さん(当時十九)の遺体が見つかった事件をめぐり,殺人,死体遺棄などの罪に関われた茨城県生まれ,無職小野悦男被告(五四)に対する控訴審で,…(朝日新聞〈夕刊>1991.4.23)
18.消費者が支払った税金が国庫に入らず,事業者の手元に残ってしまうなどの欠陥を指摘されながら,手つかずのまま実施三年目を迎えた消費税の部分見直しが,五月八日に会期末を迎える今国会で成立する見通しとなった。(朝日新聞〈朝刊>1991.4.20)
19. 国賓として日本を訪れていたソ連のゴルバチョフ大統領夫妻一行は十
九日午後,新幹線で京都を訪れた後,大阪空港から特別機で被爆地長崎
に到着した。(朝日新聞〈朝刊> 1991.4.20)

 日本語の新聞記事の場合には, 17-19の例にみられるように,修飾部が相対的にかなり長い連体修飾の装定の表現がひろくみられる。(山梨正明:173)
〈新聞記事〉
¡@このように,連体修飾の部分が長い表現になればなるほど,修飾部と主要部の緊密関係は相対的に弱くなっていく。そして,逆に修飾部の内容は,主要部から独立していくかたちで〈拡散的〉に叙述が展開していく。新聞記事にみられるこの種の例は,装定の表現が必ずしも〈凝縮的〉な表現として単純に一般化できないこ
とを示している。(山梨正明:173-174)

4.11.2修飾関係の修辞的制約
¡@前節では,とくに語用論的な観点から,装定と述定の表現機能のちがいをみた。以下では,連体と連用の修飾関係,装定と述定の転換の可能性,比喩的修飾の制約,複合的な叙述,転移修飾,モダリティーと連体修飾,修飾の部分省略とメトニミーなどの問題にかかわる言語現象をみていく。(山梨正明:174)


4.11.2.1­×¹¢関«Yの­×辞ªº¨î¬ù
¡@

4.11.2.1修飾関係の修辞的制約
¡@

4.11.2.1修飾関係の修辞的制約
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4.11.2.1修飾関係の修辞的制約
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4.11.2.1修飾関係の修辞的制約
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4.11.2.1修飾関係の修辞的制約
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4.11.2.2叙述の方向性と比喩的修飾関係
¡@

体が固い・軟らかい


育ちがいい・育ちがわるい


文字通りの意味ならいずれも可能
4.11.2.2叙述の方向性と比喩的修飾関係
 しかし¡AこのºØの§Î®eµüが¤ñ喰ªºな·N¨ýで¨Ïわれる³õ¦Xには¡A¨Æ±¡はことなる¡C3¡A4は¡A¨­Ê^³¡¦ìがかかわる­z©wのªí²{の¨Òである¡C

(山梨正明:176)



4.11.2.2叙述の方向性と比喩的修飾関係
 これらの形容詞を,比喩的な用法として,連体修飾の装定の表現に転換した場合はどうか。5の例から明らかなように,述定の表現に比べ装定の表現の方がさらに制約が強くなる。(山梨正明:177-178)



4.11.2.2叙述の方向性と比喩的修飾関係
 この種の事実は,述定の表現から装定の連体修飾の表現への統語的な転換に,叙述の意味的な制約が密接にかかわっていることを示している。さらに言えば,この種の事実は,言葉のあや,言葉の見立てにかかわる修辞的な制約が,形式と構造にかかわる文法の制約に密接にかかわっていることを示している。(山梨正明:178-179)


4.11.3装定と連体修飾の特殊性

4.11.3.1転移修飾と連体修飾

4.11.3.1転移修飾と連体修飾

4.11.3.1転移修飾と連体修飾

4.11.3.1転移修飾と連体修飾

4.11.3.1転移修飾と連体修飾

4.11.3.1転移修飾と連体修飾

4.11.3.2 内的修飾VS.外的修飾
¡@通常の連体修飾の場合には,修飾部分と主要部(ないしは被修飾部)をつなぐいわば,ピボットとしての共通の名詞が存在し,これを機軸にして装定の表現が成りたっている。例えば, 「さんまを焼く母親」のような表現は,その典型例である。通常の連体修飾の場合には,このピボットとしての主要部を主語にし,修飾部を述語にすることにより,述定の表現(「母親がさんまを焼いている」)への転換が可能になる。(山梨正明:180-181)

4.11.3.2 内的修飾VS.外的修飾
¡@

4.11.3.2 内的修飾VS.外的修飾
¡@¡@¡@

4.11.3.2 内的修飾VS.外的修飾
¡@奥津(1974)は,この種の例の主要部の名詞は,〈先行する補足文の内容全体と同格なのではなく、その中の一部としての「コト」,「サマ」,「感ジ」と同格〉であるとして,これを同格連体名詞の一種として位置づけ,「部分的同格連体名詞」と呼んでいる。(山梨正明:181-182)

4.11.3.2 内的修飾VS.外的修飾
¡@問題の現象にたいする呼び方はどうであれ,寺村も奥津もこの種の装定の
表現を、通常の連体修飾とは区別しており,一般的な連体修飾の基本的な関
係から,前者の表現を再規定する可能性は検討していない。
 しかし,この線にそった〈外的〉修飾の再規定も不可能ではない。
6. 母親が台所で食事の準備をする{声,音,気配,etc.}
7. a.修飾部:[母親が台所で食事の準備をする]<S>
b.主要部:[声,音,気配,etc.] <N>
8. a. <S>: [料理のイヴェントスキーマ]
b. →<N>:デフォールト値:{声,音,気配,etc.}
(山梨正明:182)

4.11.3.2 内的修飾VS.外的修飾
¡@例えば,〈外的〉修飾の6の例の修飾部(i.e.7a)には,主要部のピボット(i.e. 7b)に呼応する名詞は存在しない。しかし,8に示されるように,この種の名詞は,修飾部の命題内容(i.e.〈S〉:[料理のイヴェントスキーマ])から典型的な値(デフォールト値)として引き出され,このデフォールト値が主要部の名詞と共通のピボットとなり,連体修飾の装定の表現が可能となる。このようにみるならば,〈外的〉修飾の現象を,通常の連体修飾の特殊例として再規定することが可能となる。(山梨正明:182)


4.11.3.2 内的修飾VS.外的修飾
¡@例えば,〈外的〉修飾の6の例の修飾部(i.e.7a)には,主要部のピボット(i.e. 7b)に呼応する名詞は存在しない。しかし, 8に示されるように,この種の名詞は,修飾部の命題内容(i.e.〈S〉:[料理のイヴェントスキーマ])から典型的な値(デフォールト値)として引き出きれ,このデフォールト値が主要部の名詞と共通のピボットとなり,連体修飾の装定の表現が可能となる。このようにみるならば,〈外的〉修飾の現象を,通常の連体修飾の特殊例として再規定することが可能となる。(山梨正明:182)


4.11.3.3メト二ミー的補完と修飾
¡@連体修飾では,このような修飾部の命題内容の一部の補完のほかに,被修飾部(すなわち主要部)の補完も問題になる。例えば,「デンワをとった」という文は,特殊なコンテクストが与えられなくても,慣用的に[デンワの受話器をとった]という解釈が可能である。このように,一般に連体の修飾部だけが言語化され,修飾される主要部は慣用的に補完される例がひろくみられる。9は,その一例である(山梨1988a:9 4-6)。(山梨正明:182)

¥D­n³¡はºD¥Îªºに¸É§¹される¨Ò
9. a.デンワ(の受話器)をとった。
b.メカネ(のレンズ)が雲っている。
c.平安神宮(の桜)は今が満開だ。
d.やかん(のお湯)が沸騰している。
e.このレストラン(の料理)はまずい。
f.兜町(の関係者)は動揺している。
(山梨正明:183)


主要部は慣用的に補完される例
¡@9の³õ¦X¡A ( )の³¡¤Àを¬Ùいたªí²{と¸Éったªí²{は¡Aかならずしも¦P·Nであるとはかぎらない¡Cデンワの³õ¦Xには[デンワ]の¨ü¸Ü¾¹¡Aメガネの³õ¦Xには[メガネの]レンズというように¡Aその¸Ñ釈がかなりºD¥Î¤Æしている³õ¦Xもあるが¡Aここでは9の(¡@)の³¡¤Àは¬Ù²¤されているのではなく¡A ¡q³¡¤À-¥þÊ^¡r¡A¡q¤Jれª«-¤¤¨­¡rµ¥の隣±µ©Ê(contiguity)の»{ª¾に°òづくメトニミーªºな´_¤¸のプロセスにより¡Aデフォールト値(ないしは¨å«¬値)として¸É§¹されるという¥ß³õをとる(54)¡C(山梨正明:183)


4.11.3.3メト二ミー的補完と修飾
¡@

4.11.3.3メト二ミー的補完と修飾
¡@

4.11.3.3メト二ミー的補完と修飾
¡@

4.11.4­×¹¢の叙­z©Êと­×辞©Ê
¡@

4.11.4­×¹¢の叙­z©Êと­×辞©Ê
¡@

4.11.4修飾の叙述性と修辞性
¡@

4.11.4修飾の叙述性と修辞性
¡@

一緒に考えたい
中国語の修飾の叙述性と修辞性
紹介したいツール
『認知文法論』山梨正明,ひつじ書房,1995年,²Ä¢³³¹¡@¨¥»yの経験ªº°ò½Lとイメージスキーマ
参考文献
『認知文法論』山梨正明,ひつじ書房,1995年, 第4章 言語の経験的基盤とイメージスキーマ

http://ja.wikipedia.org/
http://www.agu.ac.jp/~molihua/study/Ch&Jp.PDF
http://amc.mizuho-c.ac.jp/hp/image/pdf/kiyo/no03/amckiyo-no03-05.pdf






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